この記事は昔作った「風のなかー絵本の小径ー」というタイトルのHPに載せていたものです。生協のインターネット事業からの撤退に伴い、こちらに記事を移すことにいたしました。絵本はずっと残っていくと思っているので、少し修正や追記も加えながら記事を移しています。(絶版になっているものもありますが、気になった本があれば、図書館で探してみてください。)
「絵本の小径」というカテゴリーでは、テーマ別に絵本を載せていました。
まずは「めぐる季節のものがたり」から。
「めぐる季節のものがたり」
はる・なつ・あき・ふゆ
移り行く季節を感じたら、ふと手にとってみたい絵本たち
■かえでがおか農場のいちねん
アリス&マーティン・プロベンセン・作 きしだ えりこ・訳 ほるぷ出版 1980
この本は、1年間の農場の暮らしや動物達の様子を描いた本です。前書きに「動物達は1年なんて知りません。しかし、季節のことはよく知っています。」とあるとおりに、自然の中での生命の営みを感じることが出来ます。1月から12月までの農場での季節の移り変わりを、動物達の生活を通じて、楽しんでみて下さい。
「かえでがおか」という名前がついているからでしょうか、この本は特に秋になると取り出してみたくなります。「かえでがおか農場」も、秋は取り入れの季節。ハローウィンに登場するようなゴロンとしたかぼちゃを収穫していますね♪・・・この秋の10月のページが、とりわけ好きな私でした。(2001/10/22)
■木のうた
イエラ・マリ・作 ほるぷ出版 1977
あたりの木が色づいて、そして葉っぱをハラハラと散らして行く時、今年もその木の1年の営みが終わろうとしています。次の年の芽生えまで、しばらく、木もお休みをしているように感じます。(本当はじっとしているように見えて、実は次の芽吹きの準備をしているのでしょうね。)そうした時に、ふと開いてみたくなるのが、この本です。
この本は、文字のない絵本です。1本の大木とその周りの自然の四季の移り変わりの様子を描いています。絵から木や草をそよがす風と、おおらかな大地の中で暮らす生き物や植物達の営みを感じることが出来ます。しばし、その営みの中に私達も身をゆだねよう・・・そんな気持ちにされてくれる・・・そんな1冊です。(2001/10/22)
■すばらしい季節
ターシャ・テューダー・作 末盛 千枝子・訳 すえもりブックス 2000
First Delights by Tasha Tudor
サリーは農場にすんでいます。冬から春へ、夏から秋へ、季節がかわっていくとき、サリーは自分の身体を全部つかってそれを確かめます・・・。ある日、ちいさなクロッカスの花をみつけたら、もう春です。春になると、小鳥のうたがきこえ、小川の流れる音がきこえ、池からはかえるのこえがきこえます。サリーはいろいろと春のたのしみを満喫します、水仙の匂い、生まれたばかりの子猫、メイプルシロップ・・・でもある日、春はきもちのいい夏にかわります・・・そして、秋・冬と季節は移り変わっていきます。そのたびに、サリーはいつも目と耳と鼻と口と手で、季節の喜びを探します。
物語の巻頭に、次のようなテニスンの詩が引用されています。
「しずかに 五感をあたため シマフクロウは 塔のうえでじっと動かない。」・・・この本のサリーという女の子も、自分の五感をフルに使って、1年の移り変わりやそれぞれの季節の楽しみを、私たちに伝えてくれます。
ターシャ・テューダーはアメリカのヴァーモント州の山の中に一人で暮らしていました。そして、昔ながらの生活様式で、まるでこの絵本に出てくるサリーのような感覚を持って、日々生活されていました。彼女の優しい筆使いで描かれた花や動物たち、そして風景から、自然への慈しみが感じられます。そして彼女の描くこどもの可愛らしいこと!
娘はこの本を一目で気に入ってしまいました。実はこの本、私が楽しもうと思って手に入れたのですが、娘が目を輝かせて「このごほん、◯ちゃんの?◯ちゃんの?」と聞くので、彼女に譲りました(笑)。
そして次の日には「このごほん、先生に見せてあげるの」と言って、嬉しそうに幼稚園に持っていったのです。(2001/1/24)
↑以前はすえもりブックスから出ていましたが、現在は「現代企画室」にて
復刊したようです。(2023.10)
■にぐるまひいて
ドナルド・ホール・ぶん バーバラ・クーニー・え もき かずこ・やく ほるぷ出版 1980
OX-CART MAN by Donald Hall and Barbara Cooney Porter
10月、とうさんは荷車に牛をつなぎます。それから、家中みんなでこの1年間にみんなが作り、育てたものを、何もかも荷車に積み込みました。とうさんがかりとった羊の毛、その羊の毛でかあさんがつむいでおったショール、かあさんがつむいだ糸で娘が編んだ指なし手袋・・・むすこが料理ナイフでつくった、しらかばのほうき・・・じゃがいも、りんご、はちみつ・・・エトセトラ。
荷車がいっぱいになると、とうさんは10日がかりで丘を越え、谷をぬけ、小川をたどり、農場や村をいくつもすぎて、ポーツマスの市場に行きます。とうさんは品物をひとつひとつ売っていき、最後は牛を売り、元気でなと牛にキスをしました。なにもかも売ったとうさんはポケットをいっぱいにして、家族のために必要なものを買い、そして、みんながまちわびる家へと帰っていきました。早速、娘はとうさんが買ってきてくれた針でししゅうにとりかかり、息子はバーロナイフで、木をけずりはじめました・・・そうして、また季節はめぐり、家族にとって、新たな1年がはじまるのでした。
とてもとても穏やかで優しい1年の物語です。時は19世紀、ゆったりとした時間の流れの中で、人々は生活を営んでいます。そう、私にとって、この本を読むと思い出すのは、「大草原の小さな家 」のローラの家族たちの生活、そして「赤毛のアン」の中で見た手作りの様子。自然と寄り添い、今の時代よりもずっと、精神的に豊かな生活を営んできた様子がうかがえる時代。
そしてもうひとつ、私が思い出すのは、カナダのケベック州・オルレアン島で見た200年前に建てられたという家。この家で、私たちはメイプルシロップをごちそうになりました。ちょうどこの絵本のように、かえでから樹液を採って、それを氷で固めていただくのです・・・。わたしにとって、この家族の織り成す風景は、旅先で見たなつかしい風景と重なります。
この絵本の中で、家族みんなで働くことの喜び・・・娘も、むすこも、ごく自然に、家族の中での自分の役割を果たしています。今の私たちが忙しすぎて忘れている生活、それをふと思い出させてくれる・・・そんな気がする大切な絵本です。(2001/1/23)