春の足音ー絵本の小径からー

土の中から、ほらっ、つんと小さな芽が出てきた。
風のなかにも、ふと優しい空気・・・
そぉっと、そぉっと、春は近づいてくる。
  

この記事は昔作った「風のなかー絵本の小径ー」というタイトルのHPに載せていたものです。生協のインターネット事業からの撤退に伴い、こちらに記事を移すことにいたしました。まだムスメが幼稚園生だった頃、その当時に読んだ絵本の記録です。絵本はずっと残っていくと思っているので、少し修正と加筆を加えながら、記事を順次移しています。

(20年以上も前に書いた記事なので中には品切れになっているものもありますが、気になった本がありましたら、図書館にて探してみてください。)

 

■もう はるですね 
 いわむら かずお・作   至光社 1988

 こりすのぱろとぴことぽろの三人きょうだいのお話です。
 おかあさんりすが「もう はるですね」といいました。すると、こりすのぽろが「はるがくると、ゆきはどこへいっちゃうの?」とたずねます。おとうさんりすは「ゆきはそらへかえるのさ」と答えました・・・。
 三びきのこりすたちは、ゆきがとけて行く先をみとどけようと、森の中をかけていきます。そして、丸太にのって、雪どけ水の流れる川をずんずん下っていくと・・・。

 春の芽ぶきの準備をしている森の木々たち、雪解け水の冷たそうな流れ、ところどころ丸く残っている雪と、青い空に浮かぶ雲が、一体化している絵、渡り鳥たちが北へ旅立っていく様子・・・春が来るちょっと手前の森の様子を私たちに伝えてくれる素敵な絵本です。このこりすの「ぱろ」「ぴこ」「ぼろ」が出てくるシリーズ、森の自然が美しく描写されていて、大好きなシリーズです。(2001/03/15)

現在も出版されています。(2024.2.2)

 


  ■はなをくんくん
 ルース・クラウス・文  マーク・シーモント・絵 きじま はじめ・訳
 福音館書店 1967
 THE HAPPY DAY by Ruth Krauss and Marc Simont

 雪がしんしんと降りしきる、静かな森の中・・・聞こえてくるのは、穴の中ですやすや眠る動物たちの寝息ばかり・・・ん、みんな目を覚ましました。なにかに誘われて・・・目覚めたばかりのねぼけまなこの動物達・・・うん、確かになにか匂う・・・みんな、鼻をくんくんさせて、巣穴からまだ雪が降りつもる森の中へ。・・・さて、みんながかけていったさきには、なにがあったと思う?・・・ふふっ、小さな春を見つけたの!

 全体にモノトーンな絵本です。それが雪が降りしきる冬の山の様子を、とてもよく伝えてくれます。降っている雪の冷たさや、山の静けさを、肌で感じられるようです。そして、動物達が目覚めた後は、その静寂をやぶって、どっどっどっどっ・・・と動物達のかけていく音が伝わってきます。
 静と動・・・その変化が、春の訪れの喜びを感じる瞬間を、いっそうひきたてているのでしょう。原題の通り、こんな日は、The Happy Dayなんでしょうね。
私は立春になると、この本を読みたくなります。(2001/2/6)
 

現在も出版されています(2024.2.2)

 

  ■てん てん てん
 ブライアン&レベッカ ワイルドスミス・作   香山 美子・文  フレーベル館 1998
 Footprints in the snow by Brian & Rebecca Wildsmith

 ゆきののはらに、動物達のあしあとが、てん てん てん。みんなどこかへお出かけです。
みんな、どこへ行くのかしらね・・・?

 「ワイルドスミスのちいさなえほん」シリーズの1冊です。このシリーズは、次女のレベッカさんとの共作となっていて、今までのブライアン・ワイルドスミスの絵とは、一味違った画風に仕上がっています。原画展に行った時に、あまりにもあざやかな表紙の色合いに惹かれて、買ってきました。
 
 さて、青く晴れ渡った雪山、そろそろ雪解けの季節・・・雪のとけたところには、(たぶん)かたくりをはじめ、可憐な春を告げる花たちが、咲いています。
 空の色、それとは対照的な雪の白さ、ビビットな緑の木々と色とりどりの花、そして茶色い山肌、動物達・・・それぞれの色のコントラストが、春が訪れた山の雰囲気を伝えてくれます。そして、空の色と雪の白さに、 思わず山の澄んだ空気を身体いっぱいに吸い込んだ気分になるのでした。
 
 手のひらサイズの絵本なので、お母さんのおひざの上で抱っこして、小さなこどもにも読んであげたいな・・・。娘はあともう1冊、一緒に買ってきた「いるよ いるよ」というのもお気に入り。(「いるよ いるよ」は絵探し遊びが出来ます。)
(2001/2/6)
 

フレーベル館のHPには載っているので絶版ではないようですが、hontoでも取り扱いできない案内が出たので、もしかすると品切なのかもしれません。図書館でお探しください。(2024.2.2)


 

■いちごばたけのちいさなおばあさん
 わたりむつこ・作   中谷 千代子・絵  福音館書店 1983

 いちご畑の土の中に、小さなおばあさんが住んでいます。おばあさんのお仕事は、いちごの実がなると、いちごに赤い色をつけてあるくことでした。
 ある年のこと、春はまだずっと先だというのに、とても暖かくて雪のかわりに雨が降り続いたことがありました。おばあさんはいちごの様子を見に、土の外に出てみると、いちご畑は青々とした葉をひろげ、今にも花が咲きそうです・・・さあ大変!大急ぎで、いちごに色を塗る準備におばあさんはとりかかりました・・・

 おばあさんの土の中のおうちの様子が、まるで蟻の巣のようでおもしろいのです。娘はこのページになると、手で「てっこ、てっこ、てっこ」とリズムを取って、階段をのぼっていくまねをします。おばあさんが、すべての仕事を終えて、歌い出すところも、どんなリズムをつけて歌おうか・・・と思いながら、いつも違うメロディになるんだけれど、娘に「もう一度、歌って」と言われます。(笑)
 最後は、ぽっと心が暖かくなって、心の中に真っ赤ないちごの実が実ったようです。

 去年(2000年)の今頃、この本と平山和子さんの「いちご」(福音館書店)を同時に買いました。この2冊を読んだ後、ほんとうの「いちご」をテーブルに置くと、「わぁ、おいしそうないちご!」と言って、喜んで口にしたんですが・・・もともといちごは苦手だった彼女、やっぱりダメでした・・・。ところが、今年になると、ひとつぶだけなら、いちごを食べられるようになりました。で、人には「◯ちゃん、いちごだぁいすきなの!」って豪語している娘・・・(笑)。(2001/2/7)

現在も出版されています。(2024.2.2)

いちご (幼児絵本シリーズ)

いちご (幼児絵本シリーズ)

Amazon

いちご 平山和子 福音館書店 1989

こちらが美味しそうないちごの本、現在も出版されています。

ちなみに大人になった今、ムスメはイチゴは大好きです、笑。(2024.2.2)

 
 

■もりのてがみ
 片山 令子・作 片山 健・絵
 こどものとも年中向き132号(福音館書店)1990年・1997年3月発行

 寒い寒い冬、外で遊べないとき、ひろこさんは森の友達に手紙を書きます。まず、はじめにリスに手紙を書きました。そして、森の真ん中にあるもみの木に、手紙をさげておきました。ひろこさんは、その後もいろんなともだちにお手紙を書きます・・・とかげにも、ことりたちにも、のうさぎにも、そしてもみの木にも。春になってすみれの花が咲いたら、みんなでいっしょに遊びましょうってね。
 雪がとけるころ、暖かい日が続きました。そして、あるあさ、玄関で小さな音がします・・・ひろこさんが玄関に行ってみると・・・そこには、何かが置いてありました・・・。

 ひろこさんの手書きで書かれたお手紙がとてもかわいい絵本です。冬の寒い時に、春をじっと心待ちにしているひろこさんの気持ちが、その手紙を通じて、伝わってきます。娘はまた、歌を歌うシーンで「もう1回歌って」と必ずリクエスト。(作曲しなくっちゃ・・・)
 片山健さんの絵が、やさしい気持ち、あったかい気持ちにさせてくれます。

(2001/2/7)

もりのてがみ 片山令子/作 片山健/絵 福音館書店 2006

我が家にあるのはこどものとものペーパーバック版ですが、現在はこどものとも傑作集として出ています。(2024.2.2)

 

■はるかぜのたいこ
 安房 直子・作   葉 祥明・絵    金の星社 1980

 秋が終わって、冬の寒いある日、くまの楽器屋に一匹のうさぎがやってきました。寒がりやのうさぎさんはくまさんに「なにか暖かくなるいい方法はないでしょうか」と尋ねます。すると、くまさんは「そんなら、いい楽器がありますよ」と店の真ん中に置いてあるたいこをうさぎの前にもってきました。うさぎさんが、どーんとたいこをたたいて、そっとめをつぶりますと・・・。

 五感で絵本から音や、匂いや、暖かさを感じる・・・そんな優しい感覚を持った絵本です。この本を読んでいると、本当に、読んでいるこちらも、ふうっとあったかい風が、ほおをそおっとなでていった感じがしたり、よもぎや菜の花のにおいがするような気がします。だから私たちも、うさぎさんと同じように、そっと目をつぶり、それから次の情景の絵へといくように読むのでした。
 娘にも、よもぎや菜の花の匂いがわかるように、この春は思いっ切り、いろんな匂いをかがせてあげようと思います。
 葉祥明さんの絵は、昔から大好きでした。学生時代はこの方の絵の便せんを好んで使ったりしたものです。ですから、この絵本に出会ったとき、とても嬉しく思いました。春の匂いがいっぱい香ってくる野原の絵!安房直子さんの五感を刺激する豊かな文章に、なんてぴったりなんでしょう。
(2001/2/7)
 

現在も出版されています。(2024.2.2)

 

■ねっこぼっこ 

 ジュビレ・フォン・オルファース・作 秦理絵子・訳 平凡社 2005
 ETWAS VON DEN WURZELKINDERN. by Sibylle  von  Olfers  1906

「さあ おきなさい こどもたち もうすぐはるがやってくる」

ねっこぼっこたちは大地のお母さんにそういって起こされて、春のしたくをします。

そして、春がやってきたらみんな外の世界にくりだしていくのです。ねっこぼっこたちは、春、夏、秋と大地の上ですごし、やがて木枯らしがふくと、大地のおかあさんのもとに帰っていきます。愛らしいねっこぼっこたちを通じて、春の喜び、初夏の美しさ、夏の楽しい雰囲気、そして秋の寂しさといった季節の移り変わりと大地の営みを感じる、美しくてクラシカルな絵本です。(特に初夏や夏の様子の絵は額に入れて飾りたいくらい、^-^)

 この本をはじめて知った当時は福武書店版で、すでに絶版でした。どうしてもこの絵本が欲しかった私は、英語版を取り寄せたのですが、なんだか絵本の雰囲気がずいぶんと違います。その後、この本にお詳しい方に英語版は他のライターの方が意訳した文章をつけられていること、(福武書店版の)生野幸吉さんの文章はドイツ語版の訳とお伺いしました。その後、童話館出版のもの(英語版の訳のもの)を経て、平凡社さんから秦里絵子さん訳の「ねっこぼっこ」が出て、やっと念願の絵本が我が家にやってきたというわけです。(この絵本の紹介は、2002年当時は福武書店版の話を書いていましたが、その頃とは事情が変わりましたので、今回、書き直しました。)(2024.2.5)

平凡社のサイトでは品切れとなっていましたが、Amazonやhontoで確認したところ取扱いがあるようですから、再販しているのかもしれませんね?(2024.2.5)

 

■ふゆめがっしょうだん
 冨成忠夫、茂木透=写真 長新太=文  福音館書店(かがくのとも傑作集) 1986

 たまに本棚の整理をします。こちらの本をあちらへ移して・・・と、あ、そうだ今の季節にぴったりの本、あった、あった。・・・そうして出てきたのが「ふゆめがっしょうだん」でした。冬の木の芽を拡大した写真、どれもこれもお顔のようで、ユーモラス。じぃっと木の芽を観察すると表情豊かなんだぁ~と感動してしまいます。目や口のように見えるところって、落葉した葉っぱに養分を送っていた管の断面なんですねぇ…。(しみじみ…。)「パッパッパッパッ」という長新太さんの文章が娘には大受け!二人でニコニコしながら読みました。今度、このお顔を探しに出かけてみたくなりました。 (2002.1.14 のえほんmemoより) 

現在も出版されています。(2024.2.5)

(おまけ)

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これは2年前の冬に三千院で見つけた紫陽花の冬芽です。

ね、笑っているお顔のようでしょう?!(2024.2.5)